毎日新聞・8月15日付朝刊「今日のイチオシ!」 統括社会部長 佐藤敬一

【千玄室さん死去 元特攻隊 「茶の湯外交」で平和と文化にささぐ】 持ち前の行動力で積極的な「茶の湯外交」を展開し、国際平和と日本文化の継承に一生をささげた茶道裏千家十五代家元で文化勲章受章者の千玄室さんが102歳で亡くなりました。戦時中は特攻隊員として出撃を志願したものの、命令を待つうち終戦を迎えたという経験を持っていました。

 1951年から海外へ茶道の普及を始め、60カ国以上を歴訪。日本最大規模の茶道組織を「世界の裏千家」へと導き、「国際茶人」と呼ばれました。

 茶道に生きていこうと決心したのは、戦争が大きな転機になったからです。学徒出陣し、配属された徳島航空隊が特攻基地だったため毎日が死と対面する日々。出撃する戦友のために茶をたて、「生きて帰れたら、茶道を通じてみんなのために働こう」と誓ったといいます。一碗を飲み合うことで人の輪を作り、平和を生み出そうと「一碗からピースフルネスを」を掲げて活動しました。

 亡くなった14日は、第二次世界大戦の終結から80年となる「終戦の日」の前日です。茶の精神を通して争いのない世の中を実現しようと、最期まで世界を駆け巡った人生でした。(一面、社会面)