毎日新聞・6月18日付朝刊 コンテンツ編成センター長 猪飼順

【ふるさとの価値を問い直す 原発事故被災者と歩む研究者】

 

 「ふるさとの価値とは何か」。福島第1原発の事故後、福島を100回以上訪れ、聞き取り調査を続けた大阪公立大教授の除本理史さん(51)の頭から離れなかった問いです。

 

 公害の被害実態と賠償、地域の回復をテーマに研究する中で起きた大規模な放射性物質の汚染。「地域を引き裂いた」との表現されるように、原発事故が壊したのは、地域の自然環境、経済、文化、そして人々の「一体性」でした。「ふるさとの喪失」による被害があることは自明なのに、「ふるさとがなくなって悲しい」と主張するだけでは、精神的な苦痛だけと受け取られかねません。ふるさとの意味を問い直し、研究と発表を続け、裁判で意見書を書く。2022年、損害賠償の基準に「ふるさとの喪失」が明記されるまでの歩みを追いました。(12版から1、3面)